コロナ禍における社労士としての役割(アドバイザー木村薫氏)

2021年、東京オリンピックが開催され、日本は、史上最高の金メダル数を獲得した。1年遅れの開催に、選手は様々な障害を乗り越えてオリンピックの舞台に立ち、力の限りを尽くした。日本をはじめ世界のアスリートには、心から敬意を表したいと思う。一方、新型コロナの感染は収束するどころか、拡大傾向にある。日本をはじめ、世界が封じ込めに躍起になっている。このような状況が、昨年来継続している中、私がサポートしている中小企業の状況について感じたことを述べてみたいと思う。

 昨年から始まった、コロナ禍における雇用維持を図るための雇用調整助成金については様々な企業が手続を行っている。業種は、各種製造業から飲食業、酒類卸売り業、販売業、警備業、建設業等である。これらの企業において、助成金の申請を進めるうえで、労務管理が行き届いていなかったことが、この機会に改善されるきっかけになったと思う。助成金を受けるうえでは、出勤簿(又はタイムカード)、賃金台帳、労働者名簿、労働条件通知書など(10人以上の事業所は就業規則も必須)が必要であるし、労働法令上、なければならない。助成金業務を行うことにより、こうした書類を整備することに繋がるので、会社にとってもコンプライアンス上、改善が図られることになる。これまで、助成金に関心がなかった企業であっても、このコロナによる休業を強いられ、利用せざるを得なくなったのである。社労士の考え方としては、このような状況下であっても、労務管理を向上させるうえでは、マイナスのことばかりではなかったと考える。

私の顧問先においては、昨年は企業の業務量の減少による休業補償が重点的に対応することであった。しかしながら、今年になって状況に変化がでてきた。年初には、まず従業員がコロナになったら、どのように対応したらよいかという問合せが出始めた。それが、春先以降は、従業員にコロナ感染者が出始めたのである。感染の状況を聴くと、業務上なのか業務外の私的な事情なのか分かるものもあったが、感染経路が不明確なものもあった。業務上での感染であれば、労災手続を取ることになる。業務外であれば、健康保険の傷病手当金の請求をすることになる。しかしながら、濃厚接触者である場合、本人が陰性でありながら、保健所の指導で自宅待機をせざるを得ない場合がある。このようなケースは、労災にはならないのである。従って、休業補償の対象にならない。また、労災ではないので、企業が3日間の休業補償を支払うことも法的には発生しない可能性があるという、従業員には理不尽なことが発生する。企業側には、従業員を守るという観点から、何らかの保証をすることが必要ではないかと、私は考えている。

先ほどのコロナ感染者に対して、休業補償の手続が最近は増加傾向にある。東京中心であった感染状況が、茨城県内にも急速に広がってきた。企業としては、自社の従業員を守るために、感染予防対策を講じることは当然であるが、さらに、感染者が社内に発生した場合において、企業運営の方策を立てる必要がある。如何にして企業活動を継続するかを社内で検討して、実行可能な状態にしなければならない。

続いて、今年度の助成金関係について、3種類紹介させていただく。助成金は、労働環境の状況を改善するために、設けられることが多い。今年度の状況を踏まえた内容になっているので、有効に活用できるものと考える。
1つめは、テレワークに関するものである。テレワークは、コロナ対策の一つとして有力な方法であるが、すぐに導入できるとは限らない。    業務の内容によって、今までのやり方で業務を行えないことがあるかもしれない。その場合、どのように変更する必要があるかを事前に、検討することが重要である。国においては、コロナ対策として雇用調整助成金のほかにもテレワークを新規に導入する企業に対して、助成金を準備しているぜひ 、この機会に助成金を活用して、社内の業務遂行の改善を図っていただきたい。 次に、働き方改革においては、勤務間インターバル導入に対する助成金がある。この勤務間インターバルとは、勤務終了後、次の勤務までに一定時間以上の休息期間を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保し、健康保持や過重労働の防止を図るものである。平成31年4月から、制度導入が努力義務になっている。よって、インターバル時間を確保するために、業務効率をあげるような設備導入を行う企業に対しては、助成制度があるので検討してみる価値はある。最後に、業務改善助成金についてである。今年は最低賃金が全国平均で28円アップされることになる。茨城県においては、851円⇒879円になることが予定されている。コロナの状況下、28円の上昇は多くの中小企業にとって、厳しいことであると思う。国では、このような企業に対して、業務改善助成金を拡充して対応する体制を整えている。
今までよりも条件を緩和している部分があるので、ぜひ活用して社内の労働環境の改善に結びつけていただきたい。

このように、昨年来のコロナ禍において、企業を取り巻く環境が激変している。私が行う業務においても、コロナに関する業務量が大半を占めている。コロナ対応の労務相談が増加しており、企業の苦境が理解できる。さらに、休業に関する助成金、労災、傷病手当金、給与の休業手当計算業務などである。早くコロナの収束を望みたいが、見通しは見えない。今、社労士としてできる最善のことを、継続して進めていきたい。それが、企業存続のお役に立てることを信じて。